2013年2月6日水曜日

竹中平蔵レポート「2013年 ダボス会議」


今年も1月末に、ワールド・エコノミック・フォーラム(WEF)の年次総会、いわゆるダボス会議が開かれた。今年のテーマは「ダイナミック・レジリエンス」。まさに、ユーロ危機によって疲弊した世界経済が、ダイナミックに復元力を発揮することを期待してのものだった。実は今年のダボス会議では、「アベノミックス」(自民党総裁 安倍晋三氏が提唱する経済政策)という言葉を世界の有力者も口にするなど、日本の存在感が久々に高まった点が特筆される。以下では、筆者なりに2013年ダボス会議の総括をしてみたい。

今回のダボス会議について、筆者が特に感じた点は3点ある。
①全体のトーンとしては昨年より楽観論が広がった
②日本経済への関心は予想以上に高く、かつアベノミックスに対する評価は極めて高かった
③日中の領土紛争に関する懸念が予想以上に強かった

まず世界経済全体に対する見方だが、昨年はユーロ危機が深まる中で相当に深刻な雰囲気が支配していた。「悲観」(Pessimistic)という言葉は避けながらも、「注意・懸念」(Cautious)という表現が飛び交い、ユーロ危機がいったいどこまで深まるか、固唾をのんで見守る雰囲気が強く支配していた。しかし今回は、あえて言えば「注意深い楽観」(Cautious Optimism)である。

この点に関し欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、2012年に多くの重要な決定がなされたことを指摘する。具体的に、昨年9月にECBはスペイン国債など無制限の買い支えを行い、資金の最後の出し手としての役割を果たすことを公表。これを受けるかたちで同月には、米FRBが量的緩和第3弾に踏み切った。さらに、欧州全体の預金保険機構を作ることも決められた。ドラギ氏は、実体経済はまだ良くなっているわけではないが、今年からこれらを実行に移すことで、よい方向が出ることに期待を表明している。

第二に、アベノミックスへの期待が極めて高かった点が注目される。ダボスには多くの有識者が集まるが、そのなかでも注目を集める論者の間で、安倍政権に対する高い期待が表明された。フィナンシャル・タイムズのウルフ氏は辛口の論客として知られるが、久々に日本に期待できる政権が登場したと持ち上げた。OECDのガリア事務総長、ハーバード大学のロゴフ教授なども、大きな期待を表明した。ドイツのメルケル首相は、円の切り下げにいささかの懸念を表明したが、ドイツ自身がユーロの低下で大きなメリットを受けていることを承知している出席者の反応は、冷ややかだったと言ってよい。そうしたなかで、気になる発言もあった。IMFのラガルド専務理事が、2013年のリスク地域はどこかという質問に、「Japan」と答えたことだ。当面の日本の財政拡大はよしとしながらも、中長期的な財政健全化が本当にできるのか、そうでないと大きな混乱が生じうる、と述べたのである。アベノミックスの今後の課題として、注視する必要があろう。

ダボス会議総括の第三点は、日中問題に対する世界的な懸念だ。これには、正直なところ筆者自身も意外な感があった。日本人の多くは、尖閣問題は厄介な問題ではあるが世界を心配させるような問題ではない、と考えているだろう。しかし世界から見れば、どうやら中国の対応も日本の対応も未成熟に映っているようだ。特に日本に関しては、経済の悪化がナショナリズムを高めている(ハーバード大学のナイ教授)との指摘がある。こうした点も含め、日本としては従来以上に冷静な対応が求められよう。

久々に日本の存在感が高く感じられたダボス会議・・・
次の課題は、この高揚感を経済の実績に結びつけることである。

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