
米債務上限引き上げ問題解決に向けての進展は、瀬戸際になっても芳しくない。議会や大統領は、財務省が期限とする8月2日迄に合意するため苦労しているが、ウォール街は時間切れに備えた非常時対応を検討し始めた。米国債の保有リスクを減らす動きだが、中には混乱発生を千載一遇の好機と待ち構えるプレーヤーもいる。期限までに合意が成立しても、米国債への信認を傷つけた事は間違いない。
米国債は現金と同等のリスクフリー資産として、市場金利のベンチマークと見なされており、市場が円滑に機能するために欠かせない存在だ。その米国債の担保価値について、金融機関は評価の見直しを迫られる事態となり、米国債を大量に保有する投資信託は、格下げされた場合に継続保有の可否という難問を抱えそうだ。一方、米国債離れによる価格低下に備えて、現金化を進めるヘッジファンドもある。
国債の命運を握る格付けは、上限引き上げ合意の如何にかかわらず、格下げの可能性が高まっている。S&Pは、トリプルA維持には上限引き上げだけでは十分ではなく、与野党が合意する大規模な長期の財政赤字削減策が必要だと指摘。しかし、下院共和党が主導した増税を伴わない歳出削減案は、先週末に上院で民主党の反対で否決された。上限引き上げに手間取っている間に、格下げの危険性が高まり、回避のハードルも高くしてしまった恰好だ。こうなると、国債格下げになった場合の州や保険会社等の格付けの変化や影響についても不安が募る。
ウォール街もデフォルトが現実となる可能性は依然低いと考えているものの、金融市場は騒がしくなってきた。デフォルトは米国でビジネスを行うコストを高め、株価は下落すると考える投資家の存在で、ボラティリティは上昇している。米国債も弱含みで、デフォルト時に支払いを受けられる仕組み商品の価格は高騰しているが、パニックの兆候はまだない。
今後、米国の資金調達条件が厳しくなる可能性は高い。金融危機時に大半を短期で調達した資金を、長期に借り換えようとしているため、影響は尚更大きい。米国債の低金利で、企業や個人も恩恵を受けている事は紛れもない事実。投資家の米国への信認の低下は、ドルの価値をさらに損なう恐れもある。
格下げによる最悪シナリオは、トリプルA以外の資産保有に制約がある保険会社、年金基金、投資信託等が、保有米国債の投げ売りに走る事だ。こうした現象は金融危機時にモーゲージ債で起こった。しかし、国債は例外対応とする機関投資家が多くなるだろう。米国債を売ったところで、その資金を振り向ける先がないという現実がある。ヘッジファンドであれば、しばらく現金で保有して、下がったところで買い戻すという戦略も考えられるが、運用資産が巨額になれば、そうした対応も難しい。米国債に連鎖して格下げされた債券から逃げ出した資金が、結局は米国債に向かうとの見方すらある。
現在は、市場に何が起こるか誰も予想できない状態だ。リーマン・ショック時と異なり、米国債が最後の砦の役割を果たせずに流動性を確保し、金融システムを守れるのか。放漫財政への歯止めとしての象徴的な意味しかない債務上限に振り回される米国。自ら招いた事態とは言え、その代償は大きそうだ。
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