「うわぁぁ、きっ、消えてる!」
デジカメ画像を見ながら私は絶叫していた。マントに覆われた部分が完全に見えないのだ。光学迷彩技術を応用した「透明マント」が完成した瞬間だった。
詳細は省くが、正しくは透明になるのではなく、周りの風景に同化するのだ。
風呂敷二枚ほどの大きさなので全身をスッポリと隠すわけにはいかないが、屈んで身を潜めるには充分だ。
私は志澤健介、風采のあがらない、技術系企業の課長だ。海外のM社が軍事目的で研究している光学迷彩技術を解析しているときに、偶然、透明マントはできてしまった。
(発表すべきかどうか……)
私のなかで答えはでていた。なにせノーベル賞級の発明なのだから、慌てることはない。実験期間を含め、しばらくのあいだは誰にも公表しないことを決めていた。
夢にまで見た透明人間……いや、カメレオン人間。実験がてら男の善からぬ妄想を試してみるつもりだった。
デスクでにやにやしていると、突然、須藤真奈美が声をかけてきた。
「志澤さん、例の進み具合は?」
<例の>とは光学迷彩マントのことだ。
「もう少し、時間をいただきたいのですが……」
「また、おんなじ答えね。さっさと目処をつけてねっ」
須藤真奈美はT大学卒業の才女で、まだ若いが私の上司だ。
いつも厭味ったらしく事務的に話すのが特徴で、どこかで私を見下している。
(そうだ、手始めにこの女を観察してやろう)
積もった鬱憤を晴らすのに、弱みのひとつでも握ってやれという、不埒な考えからだ。
数日後、残業で二人きりになったとき、私は帰宅したふりをしてこっそりと真奈美のいる部屋に戻った。もちろんマントを使って……。数メートルまで近づいたが気づかれていない。
そのとき、真奈美の携帯が鳴った。
「直人くん?いいわよ、ひとりだから……」
そういって電話を切った。それから10分ほどして一人の男が部屋に入ってきた。
杉山直人だ。企画広報室のエースと云われ、将来の社長候補と噂されている。
「どう?例の研究は……」
「志澤さんには厳しいみたいね。無理かも」
突然、自分の名前を出されたものだから、私は思わず声をあげそうになった。
「やっぱり、あの人じゃ厳しいか」
そう言いながら杉山は真奈美を背後から抱きしめた。
(ええっ!そういう関係だったの?)
「ここじゃ、だめっ、止めてっ」
真奈美を無視して、杉山はムッチリと量感のある乳房を服の上からギュッと抱え込み首筋に舌を這わせた。
「えらく感じてるじゃないか。この厭らしい体……」
「い、いじわるっ」
真奈美は声にならないため息をついて、椅子から崩れ落ちそうになっていた。
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